あらまし
- 薬剤師として働くかたわら、屋台を引いてお茶を提供しながら健康相談に乗る「調剤喫茶farmatería(ファルマテリア)(以下、調剤喫茶)」の活動を行う石丸勝之さん。幼少期から現在の活動に至るまでのお話や、石丸さんが思う“ケア”について取材しました。
ご近所づきあいが当たり前の環境で育つ
生まれてから大学卒業まで、足立区の花畑団地で育ちました。母親は団地内のトラブルを解決したり、病気のおばあちゃんの手伝いをしたりと、近所の“おせっかいおばさん”でした。ほかにも周りには困った時にいろいろと話を聞いてくれる大人たちがいて、漠然と「こんな風に近所の頼れる“おっさん”になりたい」と思うようになりました。
高校生の頃、アルバイトをしていたドラッグストアに、常連さんと雑談ばかりしている薬剤師がいたんです。その人目当てで気軽に来る常連さんや、時には思いつめた表情で店に来た人も、最終的にはみんな笑顔になって帰っていく様子を見て「薬以外でも人をケアできるんだ!」と強く憧れ、薬学部へすすみました。進路を考える時期になり、気軽に行けて健康や薬のことも相談できるカフェのような場所をつくりたいと考えるようになりました。「調剤喫茶」を考え始めたのもこの頃です。そのためにはまず、医療の上流にある病院での仕事を経験したいと考え、病院に就職することに。
病院ではたくさんの学びがあり、同時にいろいろな患者さんがいることも知りました。治療が終わって家族のもとへ帰る人、苦しみながら亡くなる人、治療は成功しても、理由があって家に帰れない人――。看護師やソーシャルワーカーなど他職種の人たちとの関わりの中で、薬剤師として患者さんの病気を癒すことも大事だけど、より患者さんの日常に近い場所が自分の居場所だと再確認し、地域の薬局へ転職を決めました。そこでは山形への異動も経験しました。異動前よりも患者さんとの関わりは多くなった一方で、とにかく山形の言葉に慣れるまでが大変で(笑)。言葉が通じないので、心を開いてもらうにはどうしたらいいか、非言語的なコミュニケーション方法を探しましたね。手ごたえを感じるようになると面白くなってきて、ここでの経験が「調剤喫茶」でも活かされています。
仕事は充実していたのですが「調剤喫茶」をつくることがあきらめきれず、ちょうどコロナ禍ということもあって、自分の想いをSNSでどんどん発信していきました。次第に応援してくれる仲間も増え、さまざまな分野で活躍する方とも出会う中で、だんだんと「調剤喫茶」への夢が現実味を帯びてきました。そんな時に「患者さんの本当の生活が見えるのは在宅医療の現場だよ」と私の理想に対して真摯に指摘してくれた方がいました。その助言に感銘を受け、自分から「働かせてください!」と直談判し、山形から東京へ戻り、その方が運営する在宅医療専門の「まんまる薬局」へ転職し、今に至ります。
在宅医療との出会い。そして「調剤喫茶」へ
在宅医療は、毎日のように学びがあり、とてもやりがいを感じています。また、いかに患者さんが病院や薬局で本音が言えていないかも分かってきました。例えば、医師には薬を飲んだと答えていても、お宅に伺うと飲んでいない薬が山のようにある。また、何かもやもやするけど、医療従事者にはなかなか本音を言えないなど――。在宅医療の現場では患者さんのお宅にお邪魔するので、ありのままの患者さんの姿が見えます。患者という“仮面”が外れていくような、そんな姿を見ると「患者」としてではなく「人」として向き合っているという感覚があり、今まで自分がやりたかったことだなと思います。
同時に患者さんに対して「在宅医療で関わる前に会いたかった」という想いも生まれてきました。現場では、孤独や孤立に陥っている患者さんとも多く関わります。そうなる前に薬剤師としてアプローチできることって何だろうと考えた時に、ずっと思い描いてきた「調剤喫茶」がその一翼を担えるんじゃないかと思いました。
とはいえ、喫茶店を一からつくるのはハードルが高いので、休みの日に活動できる範囲で地域に出て、薬剤師としてお役に立てそうな漢方やハーブなどのお茶を媒介に、薬や健康の話を気軽に話してもらいたいと2023 年から休日だけ活動を始めました。屋台の周辺物品はクラウドファンディングで集めました。想いに共感した方たちが支援をしてくれてとてもありがたいし、SNSで地道に発信し続けて良かったと心から思います。
人と人が癒し合う、そんな場所をつくりたい
「調剤喫茶」では、医療に関心がない人たちに関わりたいなと思ったので、あえて薬剤師という看板は大きく掲げていません。道ばたで通りすがった人全員が私の患者さんだと思っています。調剤喫茶で私がお客さんに対して一方向で関わるのはあくまで第一段階。次のめざすフェーズは、お客さん同士がつながり、時にはケアの提供者として癒し合うことです。
映画「パッチ・アダムス」でも描かれているように、ケアは医療者だけの専業じゃない。お笑い芸人だって美容師だって、誰かがみんなを癒している。誰もが提供できて、循環するものであると私は解釈しています。「調剤喫茶」という場は、あくまでみんなが集まるケアの源泉。源泉の水自体はいろいろな人が持ち寄れて、私はその中心にいる「井戸」のような存在でありたい。困った時だけでなく、ふと思い立った時に行ける場所で、押しつけがましくないケアが受けられるのが理想です。今は屋台ですが、いつかはそんな場所をつくりたいです。
取材先情報
名称
石丸 勝之さん
在宅医療専門薬局に勤務する管理薬剤師。休日は「調剤喫茶」や漢方カクテルを提供するバーのマスター、各種講演など精力的に活動している。
